【奇書を書け!】奇妙で奇怪な奇想小説の創作ガイド:ワンダーブック

文学
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 こんにちは、ザムザ(@dragmagic123 )です。

 20198月某日。わたしはTwitterでこんなツイートと出会いました。

 

 

 小説家・ジェフ・ヴァンダミアの、『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』。

 くだんのツイートで「最狂の創作ガイド」と紹介されているのもさることながら、わたしの目を引いたのは、この本が奇想小説・物語の創作レクチャーをしている点でした。

 創作レクチャー本は数多くあれど、幻想的、かつ現実惑乱的な奇想小説の作り方に焦点を当てた本は異色です。

 今回ご紹介するのはそんなユニークな創作レクチャー本である『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』になります。

 

この記事で取りあげている本
ジェフ・ヴァンダミア『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』朝賀雅子,フィルムアート社,2019
 
 
この記事に書いてあること
  • 自身SF・ファンタジー小説を書くジェフ・ヴァンデミアの『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』は、奇想小説の創作ガイド本でありながら、この自体も不思議なイラストや図表に満ちた一冊の奇書でもある。
  • 『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』には多くの項目があり、内容豊か。この記事では小説および物語の【リアリティ】、それを担う登場人物の【視点】、作品にまとまりを作るための【物語デザイン+アウトライン】などの観点を紹介。
  • 鑑賞用やブックガイドなど、多様な楽しみ方のできる『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』は「おもしろい奇想小説を書いてもらいたい!」という想いが込められている。つまり、この本を手にした読者は自分自身が書く「ワンダーブック(奇書)」を意識することになる。

 

【奇書を書け!】奇妙で奇怪な奇想小説の創作ガイド:ワンダーブック

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『ワンダーブック』はどんな本か

 『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』を読む下準備として、まずは著者ジェフ・ヴァンダミアのこと、それからこの本のコンセプトを押さえておきます。

著者ジェフ・ヴァンダミアのこと

 ジェフ・ヴァンダミアは30年以上の経歴を持つSF・ファンタジー小説の大家です。世界幻想文学賞をはじめ多くの賞を受け、大学や美術館などでの講演なども行う活動的な作家としても知られています。

 また、本と同名のサイト『Wonderbook』の運営もしており、小説創作のための有益な情報を発信しています。

(残念ながら、201910月現在、日本語で読めるジェフ・ヴァンダミアの小説は《サザーン・リーチ》シリーズの3冊━━『全滅領域』『監視機構』『世界受容』のみです。)

 

『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』のコンセプト

 『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』を開いて気づくことは、文章による解説もさることながら、それを補助する絵やイラスト・図表がとても多く、そして同時にそのどれもが「とても奇妙である」ということです。

 文章や物語、構成などの内容が奇妙な本を「奇書」と呼ぶことがあります。『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』は奇想小説の創作方法をレクチャーする本ですが、ユニークな絵やイラス・図表によって創作上有益な物語創作のための概念(アイデア)を説明する内容の奇妙さから、この本そのものが一冊の「奇書」として読むこともできます

 『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』でいうところの「奇想小説」はファンタジー・ホラー・SF・マジックリアリズム・不条理文学・シュールレアリスム小説などのことです。ですので、紹介されている物語の方法論も、現実に正確で忠実であろうとするよりも、幻想的で不思議であることに重点を置いている傾向にあります

 大づかみながら、以上が『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』のコンセプトです。

 

『ワンダーブック』拾い読み

 著者は序文で、『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』の内容をじっくり味わうなら通読することを推奨しています。わたしは通読しましたが、全384ページの凝りに凝った、溢れんばかりのアイデア及び概念図を取りあげるのは無謀……。ですので、ここでは拾い読みでもって紹介記事とさせていただきます。

 以下では【リアリティ】・【視点】・【物語デザイン+アウトライン】の3つの観点から、『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』を拾い読みしていくことにします。

【リアリティ】:現実は再現されるものなのではなく手本にするもの

 〈リアリティ〉があるか、ないか。これは小説に限らず、あらゆる創作物で取り沙汰される評価基準です。

 奇想小説の創作術を語る『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』では、この〈リアリティ〉の話は小説の話であり、物語の話でもある。━━ヴァンダミアは小説・物語の〈リアリティ〉を示唆するのに、日本の小説家・村上春樹の発言を引用します。

 自分自身にとってリアルなものを、ほんの少し現実的に描こうとしている。ぼくがリアルなものを現実的に書こうとすればするほど、作品は現実的になる。非現実的というレンズを通して見ることで、作品は現実的になる。(p19)

 ここから読み取れることは、〈リアリティ〉が単に主観的なものなのでもなく、単に客観的なものなのでもないということです。なにせ自分にとってリアルなものは主観的ですが、現実的に書くことは観客としての読者に向けて書かれているという点で、客観のほうに方向づけられているのですから。

 いわば、〈リアリティ〉とは準主観的で、準客観的でもあるという位置づけなのです。そこでは現実的なもの(例えば、実体験や実際にあった事件、人聞きの出来事など)は「再現されるもの」なのではなく、むしろ「手本にされるもの」として機能するのです。

 

【視点】:作者はキャラクターに対して不誠実であってはならない

 わたしたち人間は周囲の環境から物理的・社会的な情報をつねに受信しています。しかも受信しているだけではなくて、生理的・心理的な情報を世界の側に投映するという態で送信もしているのです。

 情報の送受信状態に置かれている人間は、「イマココではない」ことがありません。こうした世界を見渡す中心に置かれるのが〈視点〉です。あらゆる創作レクチャー本が語るように、『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』でもまた〈視点〉は重視されています。

 視点とは、つまるところ情報で、作家が読者に与えられるもっとも重要な情報は、感情の重みだ。(p50)

 物語においての〈視点〉は登場人物の視点に他なりません。(たとえ非人間的な何かからであったとしても)その誰かさんの〈視点〉から物事が語れる。それが小説ひいては物語の原則です。(あとで触れるように小説を読んでいるときに読者が発見する「語り手=神の視点」も一つの登場(人物の)視点として数えることができる。)

 小説には読者に場面を理解してもらうための「地の文」があります。一人称小説であれば登場人物の「誰かの視点」ということになりますが、三人称小説ならその〈視点〉は誰とも知れぬ語り手、すなわち「神の視点」になります。

 このような事情を前提にして小説は書かれますが、肝心なのは「作者はでしゃばってはいけない」ということです。

 たしかに作者は物語を書いていますが、基本的に作者は物語の登場人物ではないのです。物語はあくまでも〈視点〉である語り手と登場人物との間で起こる出来事から構成されます。物語の中の〈視点〉にとって作者の思惑が露骨であることは、ほとんどの場合に有害です。『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』の中の言葉を使えば、視点に不誠実」(p192)であってはならないのです。

 また、ヴァンデミアは「〈視点〉=キャラクター」の重要性を次のような文を掲載しています。「キャラクターたちは、フィクションにおける最高の謎だ」(p210)。謎は物語を決してシンプルな形にとどめさせません。この謎を追求することこそが「複雑さが増すチャンスを逃してはならない」(p231)という主張にも繋げられるのです。

 

【物語デザイン+アウトライン】:コンテンツへの興味深いアプローチ

 『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』が方法論を紹介していることからもわかるように、小説ひいては物語には「デザインをする工程」があります。その作業工程にはプロット・シーン・構成、そして、ストーリーと部門分けすることができます。

 以上の〈物語デザイン〉の工程に関して、ヴァンダミアは次のようなイメージを提出しています。

 構成とは、骨格と内臓によって定義される獣の肉体だ。プロットとは、外部から見た獣の動きのようなものだ。シーンとは、ハイレベルな有機的組織で、ストーリーという生き物の血のめぐりかた、呼吸のしかただ。(p136)

 さらにシーンにはカメラの配置・ロケーション・時間の構成要素があります。3つの要素はそれぞれに、どれかひとつでも変わればシーンそのものが変わってしまうほどの影響力を持っているのです。

 以上の作業工程をなんら手引きもなしにこなそうとすることは無謀です。「退屈だから何かおもしろい話をしてくれ」とせがまれても急には思いつかないように、小説を書きたいという思いだけに頼っても「おもしろい話」はなかなか書けません。書き手には「物語の設計図」が要るのです。その地図の名を「アウトライン」と呼びます。

 〈アウトライン〉には何が書かれるのでしょうか。それは各シーンのリストであり、各シーンにどのような効果があるのかに関しての検討です。もっと言えば、どういった登場人物を立てて、どのような場所に彼らを置き、そして彼らはどんな事情に直面しているのか。ひいては、その物語が何を語ってくれるのか。━━以上のことを確認するのが〈アウトライン〉です。

 『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』の中でも書かれているように、物語に対する〈アウトライン〉を用いたアプローチは、創作者には軽視されがちです。なぜなら彼らには〈アウトライン〉が「自由な発想を疎外する枷」に思われてしまうのですから。

 しかし、とヴァンデミアは言います。

 〈アウトライン〉はあくまでもツールなのであって、目次ではない。執筆するうえで必要なものを見せ、同時に余計なものが視界に入らないようにしてくれる、いわば「相応しい執筆を促進する糧」なのです。「コンテンツへの興味深いアプローチなのだ」(p249)。ヴァンデミアはそのように語るのです。

 

まとめ:自分自身の「ワンダーブック(奇書)」を書け!

from『ワンダーブック』

 『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』は内容の充実した、とてもボリュームのある本です。奇想小説の創作法だけを紹介するのではなくて、広く物語のおもしろさも語ってくれます。この記事でピックアップした点だけでも押さえておけば、小説を「書くとき」だけでなく「読むとき」の財産となるでしょう。

 また、興味深い本や著書の紹介をするブックガイド本にもなり、不思議な文章やイラストが満載という点では「奇書」と呼ぶにも相応しく、さまざまなニーズに応えることができるポテンシャルを備えています。

 創作ガイド本である『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』を読む読者の理想としては、おそらく読者自身に「おもしろい奇想小説を書いてもらいたい!」となることでしょう。そして願わくば、この本が新たな書き手を育み、この世にまた一冊の奇書(ワンダーブック)を誕生せしめんことを……そんな願いが込められているように思われます。ぜひ、読者になってみてください。

 そしてご自分の「ワンダーブック」を書いてみてください。

_了

 

関連資料
ジェフ・ヴァンダミア『ワンダーブック 図解奇想小説創作全書』朝賀雅子,フィルムアート社,2019
 
「奇書を書け!」と叱咤する本。この本じたいも奇書。キショい絵柄のキャラクターやイラスト図表をふんだんに取り入れているのは完全に著者ジェフ・ヴァンダミアの趣味だろう。そこが「素晴らしいっ!ブラボーッ!サイコーッ!」である。創作クラスタが読んで良し、本好きが眺めるもよし、奇書好きがニヤけるのもよし。とてもいい本だ。

 

ホームページ『Wonderbook

 

ジェフ・ヴァンダミア『全滅領域』酒井昭伸訳,早川書房,2014

 

 

ジェフ・ヴァンダミア『監視機構』,早川書房,2014

 

 

ジェフ・ヴァンダミア『世界受容』酒井昭伸訳,早川書房,2015

 

 

ロラン・バルト『物語の構造分析』花輪光訳,みすず書房,1979

 

言わずと知れたフランス構造主義の文学担当。調べれば調べるほどに作品を説明できる権威的な「作者」の概念をバラしたお方。じつは作者でさえも作品を十分にわかってはいないのだ!━━というわけで、作者の権威を格下げし、読者の身分を引き揚げた。しかしこの「読者」は威張り散らせるわけではない。作者を祀る責任ある主体が問われる読者だ。

 

橋本陽介『ナラトロジー入門』,水声社,2014

 

物語論(ナラトロジー)のおもしろさを世に広めようと活躍する比較文学者・橋本陽介による入門書。物語論の入門書は2冊出していて、そのうちの小難しいほうの本。一般向けには《講談社選書メチエ》から『物語論 基礎と応用』が出ている。物語の専門的な読みかたを通覧でき、おもしろそうな本のブックガイドとしても機能する。

 

菱沼正美著,亀井秀雄監修『超入門!現代文学理論講座』,筑摩書房,2015

 

《ちくまプリマー新書》はライトな内容を思わせる装丁だが、この本は想定を外すボリューム。主人公の心情に寄り添うことを重視する日本の国語教育の理念への違和感からはじまり、主要な文学理論を総ざらいする。言語行為論まで出てくる玉手箱的な一冊。ロラン・バルトの「作者の死」にも言及し、読者の責任を説く。

 

K.M.ワイランド『アウトラインから書く小説再入門』シカ・マッケンジー訳,フィルムアート社,2013

 

 

マイケル・ポランニー暗黙知の次元』高橋勇雄訳,筑摩書房,2003

 

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