この記事で取り上げている本――
Vジャンプ編集部『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル PS3版 オールスターガイド バンダイナムコゲームス公式攻略本 (Vジャンプブックス)』集英社,2013
この記事に書いてあること――
- 『ジョジョの奇妙な冒険』は勇気と覚悟、そして誇りを表現する作品
- 作者である荒木飛呂彦の独特な言い回しや表現技法なども魅力
- 『ジョジョの奇妙な冒険-オールスターバトル-PS3版 』の後出しじゃんけん的な売り方ゆえの低評価
- 『ジョジョの奇妙な冒険-オールスターバトル-PS3版 』 の攻略本のインタビューがおもしろい
- 荒木飛呂彦が、昔、岸辺露伴に答えさせた質問に答えている
- 荒木飛呂彦の世界では呼吸によって整えられた精神が覚悟を決めることで人間讃歌を体現する
『ジョジョの奇妙な冒険』について
荒木飛呂彦のマンガ作品である『ジョジョの奇妙な冒険』(以下シリーズ全体を指して《ジョジョ》)は、かなり熱いです
1986年の連載からシリーズが続き、2019年になっても続く、つまり33年間ものあいだ読者に親しまれている人気作品です
おおざっぱに言えば、内容はアクション・格闘・アドベンチャーもので、「ジョジョ」と呼ばれる人物が勇気と覚悟、そして誇りを以て自分の信じるもののために闘うストーリーです
その魅力は作中人物の見せる気高さばかりではなく、作者である荒木の描く独特の言い回しや表現技法からも感じられます
荒木自身が言うように《ジョジョ》シリーズの、シリーズを通してのテーマである「人間讃歌」もまた、人間が人間であることの、自分が自分であることの強く深い肯定をうながすものとして、読者が《ジョジョ》作品をたのしむことを可能にしてもいます

『ジョジョの奇妙な冒険-オールスターバトル-PS3版 』の《ジョジョ》愛と後出しじゃんけん
今回取り上げる本はそんな荒木の作品……ではなく、《ジョジョ》シリーズを原作にしたPS3のゲーム化作品である『ジョジョの奇妙な冒険-オールスターバトル-PS3版』(以下ジョジョASB)の攻略本です
まず、『ジョジョASB』について軽くおさらいしておきましょう
『ジョジョASB』は2013年に発売されたプレイステーション3専用のゲームソフトです
ただ、評価がひとによって分かれる作品でもあります
ポジティブに言えば、開発者の《ジョジョ》愛の詰まった作品で、キャラクターや世界観の細部にまでこだわったものです
その点ではファンにとってもゲーマーにとってもすばらしいゲーム作品でした
しかしネガティブな面もあります
しかもそれはポジティブな面を見えなくしてしまいかねないような、ネガティブさが

『ジョジョASB』のネガティブな面は、作品を楽しむために、購入後に後出しじゃんけん的に出てきた課金要素です
《ジョジョ》の登場キャラクターを使うのに、ダウンローダブル・コンテント(DLC)、つまりダウンロード・コンテンツを購入しなければならず、なお悪いことに、ゲーム内でストレスなく遊ぶためには課金アイテムが必要であるという情報を発売前にゲーム会社側が告知しませんでした
『ジョジョASB』の売り上げのほとんどが発売前の事前予約でもって売れたために、購入したファンにとってはまさに後出しじゃんけんだったのでした
とはいえ、そのような事情を込みでも、作り込まれている部分はすばらしいもので、原作の描写を知っているファンにはプレイ画面を眺めていることでもたのしめるところがあるのも事実です
『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル PS3版 オールスターガイド』を取り上げるワケ
――で、その『ジョジョASB』の攻略本を、なぜ筆者が記事にしようと思ったのか、ですが、ゲームの内容について一家言あったからというわけではありません
そうではなく、筆者がこの攻略本――『ジョジョASB オールスターガイド』について記事にしたのは、巻末にあるスペシャルインタビューの企画をご紹介しようと思ったからなのです
スペシャルインタビューのコーナーには、ゲームの主要〝ジョジョ〟キャラクターに声をあてた声優と、開発ディレクターである松山洋、そしてそして原作者の荒木飛呂彦先生のインタビューが掲載されているのです
そこには他にも声優や開発者のインタビューも各自の《ジョジョ》ファン魂を開陳していて、読んでいておもしろいのですが、筆者は原作者の言葉を取り上げることにします
当時は《ジョジョ》シリーズが25周年という記念の年だったのもあり、インタビュアーの序盤の質問も穏当に、原作者としてのゲーム化の感想や当時のアニメ化の影響などについて質問していて、それほどおもしろいものではありません
しかし後半では荒木飛呂彦というひとの感性に触れる質問を試みます
とはいえそれも決して多くはないのですが、「どんな音楽がお気に入りですか?」や「どんな映画がお気に入りですか?」などと荒木に訊ねるのです

『ジョジョの奇妙な冒険』の原作者の世界観
荒木飛呂彦への質問
では、実際に荒木の受け答えについて見てみることにしましょう
たとえば、荒木は音楽について次のように答えます
カントリー&ウェスタンをよく聞きます。アメリカの演歌といったらいいんでしょうか。ボーカル、人間の声を純粋に聞かせてくれます。
Vジャンプ編集部『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル PS3版 オールスターガイド バンダイナムコゲームス公式攻略本 (Vジャンプブックス) 』集英社,2013,p291
カントリー&ウェスタンを「アメリカの演歌」と言うとは!
実におもしろい言語感覚!!
荒木は《ジョジョ》の作中でも特徴的な言い回しをしますが、自分の好きな音楽について語るときにもそれが表れていて、いちファンである筆者もそこに魅せられてしまうのです
そしてそして、
筆者がもっとも荒木の世界観がガッツリと語られている箇所が最後にあります
そのコーナーには次のようなタイトルが付けられています
「ものすごく奇妙な質問をさせていただきたい――――」
そう、打ち出してから荒木に質問する内容は、なんと、『ジョジョの奇妙な冒険 34巻』の企画コーナー、「漫画家のうちへ遊びに行こう その④」で、作中のキャラクターである岸辺露伴が答えていたものと同じ質問なのです
すなわち、以下の3つの質問に荒木は答えているのです――
- Q.あなたにとってマンガとは何ですか?
- Q.尊敬している人は誰ですか?
- Q.この世でもっとも大切なものは何ですか?
以上の質問に、岸辺露伴は誠実に答えてはいませんでしたが、荒木は誠実に答えています
しかしながら、筆者は、荒木の答えた内容をそのままここに掲載することは控えることにします
それはぜひ手にとって読んでもらいたいのです

荒木飛呂彦の世界
とはいえ、このようなかたちで記事にまとめた手前、筆者自身が荒木の質問への答えから受け取ったものを、最後にまとめてみることにします
わたしたちの感性や思考ひいては自分自身は、宇宙や社会、つまりは自身が生きる環境からの〝恵み〟によって生まれるものです
〝恵み〟を自覚しているものは、水のように、空気のように、「自然で純粋な姿勢」で生きられます
わたしたち自身が自然の一部であることを思い出すためには、生命の営みを感じられる〈呼吸〉を意識することが大切なのです
荒木の言葉使いを借りつつも、筆者が受けとったところとしては、だいたい以上のような形になります
そこでは、荒木の世界観および、荒木の創作への態度も表れたメッセージまでも予感させる形で、荒木はくだんの質問への答えとして語ってくれているのです
荒木が〈呼吸〉について語ることは《ジョジョ》シリーズの起こりで重要な位置にあった「波紋」の能力を思い出させます
「波紋」の能力には呼吸法が重視されていました
《ジョジョ》のテーマが「人間讃歌」であることも、呼吸法を問う文脈のなかで語られたセリフです
そのような事情を想うと、荒木が〈呼吸〉にこだわることと、人間が人間であることを讃える物語として「人間讃歌」の言葉を持ってくることのあいだにはつながりがあるのかもしれません
〈呼吸〉および〝呼吸法〟と「人間讃歌」とがむすびついているような世界観
そのあいだに読者として想像を働かせてみれば、筆者は〈覚悟〉を連想します
〈覚悟〉は荒木が《ジョジョ》の作中で何度も繰り返し登場させるキーワードです
ようするに、呼吸法によって整えられた精神が覚悟をすることによって人間讃歌を体現することができるのではないか、と

以上は筆者の想像の産物ですが、いちファンとして長年 荒木作品を追ってたうえで、当記事で扱った『ジョジョの奇妙な冒険 ASB オールスターガイド』での荒木の言葉を読んでのリアリティです
仮に、筆者が得た荒木飛呂彦の世界観のリアリティを、「荒木飛呂彦の世界」と名付けることで、本稿を書き終えることにします
_了
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